成功するマーケティング どんな企業も体験を売るという視点をもつこと

モノを売っている観覧車と体験を売っている観覧車

体験を売るということの大切さを、身にしみて感じたことがあります。
「すべての企業はこの視点を持たなければ支持されることはないな」
そう思った瞬間でした。

それは観覧車に乗った時のことです。

「観覧車」、今では定番の人気スポットになっています。
建設にはお金がかかりますが、お客さまが来ると売上も利益もすごくよくて、事業的にはかなり優れた施設みたいです。
最近の観覧車に乗ったことありますか?
まだならぜひ行ってみて、体験してみてください。
あ、でも、中年の男性同士で、おまけにスーツ姿では決して行かないようにね。ものすごく場違いですから(笑)。
あなたがもし中年の男性だったら、奥さまか女性のお友だちと行ってみてください。
女性のお友だちが調達できなければ、若い女性社員を誘いましょう。
できたら金曜の夕方から夜がオススメです。
そしてまわりを見渡して、どういう人たちが利用しているか観察してください。

観覧車は体験を売っている

観覧車は体験を売っている

行ってみるとわかりますが、ファミリーよりも、たくさんの若いカップルが利用しています。
たぶん利用者の8割はカップルです。
そしてそのカップルは観覧車の中で何をするのでしょう?

そうです、観覧車は「体験」を売っているのです。

きれいな夜景を見ながら、好きな人とふたりっきりで夢のような時間が過ごせる。
恋人同士がロマンティックな時間を過ごせる。
「今晩こそはキスをするぞ」とか「今日こそモノにするぞ」とか、そこにはさまざまな「ドラマ」があったり、さまざまな「思惑」があるのです。
それを「体験」するために、観覧車が利用されているわけです。
観覧車は今まで遊園地にあったような、子供たちの遊具ではなくなっているのです。

体験を売る視点がなければ失敗する

観覧車が人気だからといって、単に設置すればいいということではありません。
かつてこんなことがありました。
ある公園に、新しい観覧車ができました。
これは公共団体がやっています。財政難を少しでも解消しようということなのでしょう。
この考え方は正しいと思います。
でもその公共団体は決定的なミスを犯していました。
絶対にやってはいけないことをやっていたのです。お役所がやりそうなミスなのですが、何だかわかります?
それは、
「相席にしてしまった」
ということです。
6人乗りのゴンドラにふたりだけだと席の効率が悪くなり、利用者が長く並ばなくてはならなくなるので、関係ないカップルを相席させたのです。

最悪ですね~。

確かにその日は混んでいてたくさんの人が来ていました。
乗る前にアナウンスで相席になることも告知していました。
でも、それって意味がないですよね。
お客さまの8割くらいはカップルなんですから。利用者がどういうことを求めているのかに気づいていない。
「体験」を売っているという視点が完全になかったのです。
カップルは観覧車に乗って、高いところから夜景を見たいわけではありません。
ロマンティックな世界でふたりっきりになりたいから観覧車に乗るのです。

それをわかっていない。

知らないカップル同士が狭いゴンドラの中で、一体どういうことをすればいいのでしょうか?
どういう会話をすればいいのでしょうか?
百歩譲ってカップル同士ならまだいいですが、カップルと相席になった親と小さい子供はどうすればいいのでしょうか?
ものすごく気を遣って、ストレスになりますよね、お互い。
想像するだけで恐ろしいです。
そして、その後のSNSで、どう発信されるかを考えると、ダメージは大きいです。

とある街にある、民間が運営している観覧車は決して「相席」にはしません。
それはお客さまがどういう体験を求めているかをしっかり知っているからです。
だから人気です。
お客さまのカップルも、並んだって「相席」にされるより100倍いいと思っています。
いえ、逆に並ぶこともふたりで楽しんでいます。
「相席にしない」ということが保証されている観覧車。
いつ行ってもふたりっきりの世界を体験できるのですから、ひとり1000円くらいの利用料は安いはず。

だから、選ばれるのです。

一見ちょっとしたちがいですが、ものすごく大きなちがいです。

体験を売るという視点を持っていたら、公共の観覧車も「相席」なんて真似はしなかったでしょう。

相席をさせることに何の疑いも持たない、公共の観覧車は「モノ」を売っている観覧車。
お店でたとえると、ヒット商品に頼っているお店です。
でも売り方に工夫がないってことです。

絶対に相席をさせない、民間の観覧車は「体験」を売っている観覧車。
ヒット商品もあるけれど、それだけに頼っていないわけですよね。
最大限お客さまが喜ぶ工夫がしてあるのです。

自分がワクワクドキドキした体験を思い出そう

あ、そういえば、実はこの後、公共団体が運営する観覧車も、「相席をしません」ということを売りにし始めました。
きっとお客さまからの要望やクレームが多かったのでしょう。
「体験」を売ることの重要性に、お客さまの声で気がついたのかもしれません。

自分がどういう「体験」をしたときに、ワクワクしたか、ドキドキしたか、感動したか、思い出してみましょう。
その「感情」に、大きなヒントが隠れているのです。

今流行っているお店、売れている商品、集客している施設などを注意深く観察していると、形こそちがっていても、共通していることがあります。
それは「モノ」を売っているのではなく、「体験」を売っているということです。

「モノ」ではなく「体験」を売れ!

すべての企業は、「体験」を売っているのです。
モノを売っているという考え方から早く脱却しましょう。

自分の会社の商品やサービスが、お客さまにどのような「体験」を提供しているのか、もう一度考えることです。

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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