デイミアン・チャゼル監督の『ファースト・マン』は静かな喪失感の映画

『ラ・ラ・ランド』より良かった

デイミアン・チャゼル監督の映画『ファースト・マン』を観てきました。
主演は『ラ・ラ・ランド』の主演、ライアン・ゴズリング。
この一年で観た映画の中では、かなりいい映画だった。
同じくライアン・ゴズリングが主演した『ブレードランナー2049』より、『ラ・ラ・ランド』より、こっちの方が好きかも。
もちろんブレードランナー2049もラ・ラ・ランドも好きですよ、でも好きの度合いはこっちが高いな。

パンフレット

アメリカのアポロ11号が月面着陸したのは1969年の7月20日。
人類史上初めて月に降り立った、ニール・アームストロング船長の話です。
「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」
という、あまりにも有名な言葉を残している人です。

アポロ11号が月に着陸するとき、日本でも生中継がおこなわれました。
ボクは小学校5年生だったと思う。
眠い目をこすりながら見ていたけど耐えらなくて寝てしまった。
でもその時には着陸せず、翌日(日本時間では21日)の昼くらいに着陸成功したんだと記憶しています。
あの時は、こども心に「すごいな〜」「ボクも月に行けるんだ」と、ただ感激していただけですけど、その裏にはとてつもない苦労、たくさんの人たち、膨大なお金とエネルギーが費やされていたんだな。
当たり前のことなんだけど。

1960年代のアメリカは、宇宙開発競争でソ連の大きく水をあけられていました。
人工衛星を最初に成功させたのも、有人飛行も、宇宙空間での船外活動も、ソ連に先を越されていた。
1961年、当時のケネディ大統領は「アメリカ合衆国は60年代のうちに、月に人を送り込み、そして帰還させる」という演説をします。
残されたのは月面着陸しかなかったのです。
この映画は、アームストロングの視点から描かれたアポロ11号が月面着陸するまでの話です。

<ここから若干ネタバレがあります>

見終わったあと、パンフレットを読んで気づいたんですけど、宇宙船内部とアームストロングの家庭の撮影には16ミリフィルムを使っている。1969年当時のニュース映像などに使われていたフィルムです。だからどこかドキュメンタリー風になっている。
通常のシーンでは35ミリフィルム。
月面のシーンでは真空なのでより解像度の高い65ミリIMAXフィルムを使っている。
音の使い方も、とても良かった。

国家と個人、2つの物語

映画は2つのテーマで進んでいきます。

国家の威信をかけて計画された「ジェミニ計画」とその後の「アポロ計画」の物語。
今見ると、よくこんなロケットで月まで行ったな〜って思うくらい頼りないロケットだったり、政府がアポロ計画を成功させるまでの様々な試練や蹉跌。犠牲者が出る事故。そんなことが描かれている。
当時の宇宙計画は、まるでギャンブルのようなものだったんだなということがわかります。

そしてもう一つは、今まであまりスポットが当たらなかった、宇宙飛行士たちの家族。
特に奥さんの物語。
地上に残された女性たちの、不安、苦悩、喜び。
アームストロングの奥さん、ジャネットを演じたクレア・フォイという女優さんがとてもいい演技をしています。
家族の映画だという評論がありましたが、確かに一理あると思う。

アームストロング自身の一人称で体験する、様々なシーンの迫力。
ロケットの轟音と静寂のコントラスト。
まるで自分が体験しているような感覚になります。
名作『2001年宇宙の旅』を思い起こさえるような場面も良かった。
宇宙空間と宇宙船のシーンに当てこまれたクラシック音楽は、まさにこの映画へのオマージュです。
『セッション』や『ラ・ラ・ランド』でも思いましたが、デイミアン・チャゼル監督って本当センスがいいな。
効果音、音楽の使い方のセンスの良さ。
最後のあたりに、ジョン・F・ケネディの1961年の演説を持ってくるセンス。
ミッションを成功させた後に、アームストロングがガラス越しに奥さんと対面するシーンのセンス。
笑顔も会話もないあのシーンは、この映画の重要なテーマを暗示している。
とてもいい映画でした。

静かな喪失感がメインテーマ

これはボクの個人的な感想ですが、この映画は「静かな喪失感」の映画だと思った。
映画の冒頭、アームストロングは幼い娘カレンを病との闘いの末に亡くします。
まだ2歳くらいの子です。
まだ幼い娘が病気に苦しんだ末に死んでしまう。
その諦めきれない喪失感。
でも彼はそれを、他の人には一切見せません。
自分の妻にさえ見せない。
彼の心の中には、ずっとその喪失感が白い影のように存在している。
NASAに入ったのも、宇宙計画のミッションも、月面着陸も、全てその喪失感との葛藤があったからじゃないかと思うのです。
アポロ計画の過程で、事故で友人を失くすたびに、彼の心の中には喪失感の悲しみが増していく。
それを埋めるように、ミッションを遂行していく。
それがとてもよくわかるのです。
最後のシーンを見ていて思った。
アームストロングは自分の心の中の喪失感を回復したのだろうか。と。

人類史上初めて月に降り立つという歴史に残る偉業を達成し、人類を大きく飛躍させた男。
ニール・アームストロング。
その英雄も、一人の人間として、深い静かな悲しみを抱え、諦観を求めて生きている。
人間というのは一体なんだろう。
生きるってことは一体なんだろう。
そういうことを考えた。

もちろんこれはボクの個人的な感想です。

みなさんはどう感じるか、何を受け取るかはわからない。
でも、映画としても面白いから、ぜひこの週末にでもお近くの映画館で。
おすすめです。

「ファースト・マン予告編」Youtube

 

 

 

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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