直接ファンが絵を買ってくれる
北海道の釧路に木島務さんという画家がいました。
数年前に72歳で亡くなってしまいましたが、熱狂的なファンがいた画家です。
どこかの芸術団体に属しているわけでもなく、どこの画廊とも契約しているわけではありません。
芸術賞などにも関心なく、純粋に自分の作品だけ発表していた。
まさに孤高の芸術家。
ボクも何回かお会いしたことがあります。
外見もひと目で芸術家とわかるような個性的な方でした。
最初に会ったとき、絵を売っていると聞いて、それだけで食べていけるのだろうかと思いました。
釧路というのは人口が20万人弱の街です。
そんな地方都市で、自分の絵だけを売ってやっていけるのだろうか。
そういう疑問。
木島先生は年に6回、北海道内で個展をやっているということでした。
釧路3回、札幌2回、函館2回。
絵の価格も安くありません。どちらかというと、けっこう高価です。
後で関係者の方から聞いたのですが、個展をするとほぼすべての作品が売れる。
すごいなと思った。
結構高価な絵が毎回完売する。
最初は信じられませんでした。
たしかに素晴らしい絵を描いています。
釧路湿原や釧路川、北海道の風景を、独特の色使いと力強いタッチでエネルギーがあふれる風景画です。
絵というのはある意味、生きていくために必要なものではありません。
おまけに高価。
それが完売するとはなかなか信じられませんでした。
ところが木島先生には売れる秘密があった。
それは何かと言うと「顧客名簿」です。
過去、個展に来てくれた方の名前と住所が記してある大学ノートがあるんです。
その数、約3000名。
そして木島先生、個展をやるたびに、3000人に手書きでハガキのダイレクトメールを書くのです。
ハガキの裏は木島先生の絵になっています。
線は印刷してありますが、自分で色を付ける。
手書きで宛名を書いて送る。
これはすごいです。
だって3000名ですよ。
おまけに有名な画家が自ら色をつけた手描きの絵です。
このハガキを毎回楽しみにしていて、額に飾っている人もたくさんいるそうです。
でも、丁寧に送り続けていると、必ず何回かに一回は来てくれるそうです。
「先生、いつもお手紙ありがとうございます。先生の絵、うちの家計じゃまだとても買えないんですよ。今度お父さんが定年退職したら、退職金で買わせていただきますね」
そういうお客さまがいても、先生は絶対に売ろうとはしないそうです。
「買わなくてもいいよ、見ていくだけでいいから」
それで、お茶を出したり、御菓子を出したりして個展会場でもてなすんです。
ファンが大勢いるのもわかります。
そして新規の人には一切告知していないのですけど、新しいファンが増えていく。
それは、ファンの人が友人を連れてきてくれるからなんです。
3000人に手書きの葉書を出すなんて、普通の人には無理ですよね。
「そんな、再現性のないこと事例に出すなよ」
って思う人もいるかもしれません。
でもね、この事例の表面だけ見て判断している人は、今後成功しないと思う。
本質を見つめることです。
後で解説しているよ。
ファンになってしまう人柄
ある個展の時の話です。
20代半ばくらいのOLさんのような女性が、1枚の絵の前でずーっと見ていたそうです。
その女性はずっとその絵の前から離れません。
木島先生は、それに気づき女性に声をかけました。
「この絵、気に入ったのか?」
「はい、とってもいい絵ですね」
「そうか、欲しいか?」
「はい……でも、私はこんな高い絵は買えません」
「お前、働いてるのか」
「はい。○○で仕事してます」
「そうか。ひと月1000円払えるか」
「1000円ならなんとか」
「だったら持っていっていいぞ」
「えっ、いいんですか」
「うん、払えるときに払えばいいから。持ってけ」
そういう感じの人なんです。
だから人気がある。
もう完全に木島先生を中心とした、コミュニティができあがっているのです。
コミュニティをつくることはスゴイことだなと思います。
規模の小さい北海道の地方都市で、個展をやって、ちゃんと食べていくどころか、けっこういい収入を得ている。
個展をやって発信していくと有名になっていきます。
広告代理店から「○○のポスターの絵を描いてくれ」と仕事の依頼が来たり。
釧路駅から駅に壁画を描いてくれとか、会社の社長さんや学校の理事長さんなんかにオリジナルの絵を依頼されたり。
さまざまな話が来る。
この木島先生の個展の逸話は、商売の真理に近いところにある。
そう思うんです。
商品がいいだけではなく、おなじみさんにいつもコンタクトをとって、大事にする。
コミュニティの「つながり」を大切にしている。
そうするとリピーターが増え、それと同時に新規客が増えていく。
SNS時代のビジネススタイル
木島先生がどこの団体にも属さず、画廊や代理店などにも頼らず、自分でファンに直接「作品」を売っている。
これは今のSNS時代のビジネスに通じるものがあります。
音楽をやっている人
絵を描いている人
小説や詩を作っている人
アクセサリーを作っている人
ものを作っている人
商売をやっている人
さまざまなビジネスに、とっても参考になる事例です。
誰にも頼らないで、自分のファンに直接買ってもらう。
木島先生は、このコミュニティを何十年もかかって作り上げてきたのだと思います。
でも、ボクたちは今、SNSという強力なツールを与えられているのです。
数年で、あなたが中心になったコミュニティができる可能性もある。
SNSであなたに共感してもらい、ファンになってもらう。
すべてのビジネスに携わる人は、そういうスタイルで仕事ができると、今までとは違う世界が、大きく広がります。
独自の価値、独自のスタイルです。
そういう意味では、SNSを使っている人はすべて「アーティスト」なのです
藤村 正宏
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