スターバックスも、体験を売るマーケティングを実践している。

8割以上の人が欲しいものはないと答えている

スターバックスに行って、思った。
「スタバって、完全にエクスマだな」そういうこと。
ボクがエクスペリエンス・マーケティングを提唱する前から、エクスマをやっていたんだな。

スタバはずっと体験マーケティングを実践している

スタバはずっと体験マーケティングを実践している

エクスマ(エクスペリエンス・マーケティング)という考え方は、ボクが考えたわけではありません。
言葉はボクがつくりましたけど、こういう考え方は前からありました。

たとえば、
「『モノ』ではなく『事』が大切です」
「『商品の機能や便益』ではなく『商品の意味合い』を提案しましょう」
「『ライフ』ではなく『ライフスタイル』を売りましょう」

マーケティング・コンサルタントの先生や評論家、作家の先生が、時々そういっているのを聞きます。
ま、ボクがいっている「エクスペリエンス・マーケティング」というのも(若干のちがいはありますが)基本的には同じです。ただもっと直感的にわかりやすくするために、「モノ」ではなく「体験」を売ろうといっているわけです。
「事」や「商品の意味合い」や「ライフスタイル」よりも「体験」といったほうが、身近でわかりやすいでしょ。だって、あなたも毎日何らかの体験をしているわけですから。
Experience(エクスペリエンス)=「経験・体験・見聞・経験内容」を売りましょうということです。
これからは「モノ」を売っていてはいけません。
「体験」を売らなければならないのです。

ボクたちは、今まさしく大きな変革のまっただ中にいます。
今までのような「モノ」の売り方をしていると、もう「モノ」は売れないのです。

「そんなの知っているよ、だから一生懸命頑張っているんじゃないか」
と思っている方もいるかもしれません。
でも今までと同じやり方をしていませんか?
過去の成功体験を基にした考え方をしていませんか?
今までのような考え方でやっていては、頑張れば頑張るほど、無駄なエネルギーを使ってしまいます。
そして利益も少なくなってしまうのですよ。

たとえば「安売り競争」です。
どこで買っても同じモノだったら、価格の安いところで買いますよね。
消費者としては、それは当たり前です。
モノが売れなくなると、価格を下げたくなるのはわかります。
でも、血のにじむような安売りをしていても、競合店がそれ以上価格を下げたら、もうおしまいです。
もっと価格を下げなければなりません。
そんなことやっていたら、会社でも個人でも疲弊してしまいます。
それから得られる利益は、どう考えても多いとは思えません。
「モノ」を売っているというのは、こういうことなのです。

しつこいようですが、大切なところなので繰り返していいます。
今までのような「モノ」の売り方をしていると、もう「モノ」は売れないのです。
それなのに、メーカーでも小売店でも飲食店でも、今までのような「モノ」の売り方をしているところがほとんどです。

モノが売れなくなると、どうしてもモノを売ろうとしがちです。
ところが、モノを売ろうとすればするほど、モノが売れなくなるのです。

ここに面白いデータがあります。
某有名新聞の消費者調査ですが、消費者の実に85%以上が「欲しいモノはない」と回答しています。
欲しいモノがないといっている消費者に、モノを売っていたら、売れないのは当たり前ですよね。
人々はもう十分にモノを持っているのですから。
では、欲しいモノはないということは、モノはもう売れないということでしょうか?
もしそうだったら、明日にでもお店を閉め、何かちがうことを始めなきゃってことですよね。
大丈夫、そんなことはないのです。
安心してください。

お客さまはお金を遣いたくないのでしょうか。
そんなことはありません。

確かに消費者はお金を遣わなくなっています。
目や舌が肥えて、普通の商品じゃ満足しない。
欲しいモノがない……等々。
しかし一方で、売れている商品、流行っている店は確実に存在しています。
あなたもそういう店に行ったことがあるでしょう。

どうして流行っているのでしょう?
確かにそこで売っている商品や提供される料理はよいものでしょう。
しかしそういうところは、商品の優位性だけで「売れている」わけではないのです。
消費者は商品そのものの魅力では、もはやお金を遣わなくなっているのです。

スターバックスは実にエクスマ的な店

たとえば、20世紀の終わりに日本に初上陸した「スターバックス」。
これはマーケティング的にすごく衝撃でした。

それまで日本にあったコーヒー屋さんが売っているものはおいしいコーヒーやサンドイッチ。
でも、スターバックスはただの立ち飲みコーヒー屋さんではなかった。
単においしいコーヒーを売っているわけではなかったんです。
店内で飲むことにしろ、テイクアウトするにしろ、スターバックスの提案する「カフェ体験」を売ったわけです。
その「カフェ体験」がステキだから、衝撃を与え、その後も流行り続けているわけですよ。

ん? 「カフェ体験」っていうのがわからない?
う~ん……、じゃ、「カフェ体験」を言い替えれば……。
スターバックスが提案する「カフェのあるライフスタイル」といえるかもしれません。
この「スターバックスが提案する」というところがミソなんです。
「ドトール」でも「ヴェローチェ」でもなく、スターバックスがお客さまに体験させてくれる「カフェのある生活」なのです。
要は、コーヒーではなくある種のステキな体験を売っている。
ですからコーヒーの味以外にも、お客さまがスターバックスと関わってどういう体験をするかに、ものすごく注意を払っています。

イメージに合わない地域には出店していませんよね。
内装は目に優しく、落ち着く色彩計画をしています。
お客さまが直接触るテーブルやカウンターの素材にも気を配っています。
カップやナプキンなどの小物もコンセプトに合ったデザインがされています。
コーヒーの匂いを感じてもらうために、当然店内は禁煙になっているでしょ。
店内のBGMも季節ごとにオリジナル編集をしています。

「五感を大切にしている」店づくりをしているのです。

だからスターバックスが混んでいて、しょうがないから他の似たようなカフェにいってもなんだか「落ち着かない」と感じるのです。
これが「ウチはおいしいコーヒーを売っているんだ」という発想だったら、ここまでは考えないでしょう。
また、スターバックスが提案してくれるライフスタイルに共感した人たちは、コーヒー以外にもお店がすすめるモノにも共感してくれます。
ここまでくると商品は無限に考えられるようになります。
BGMのCD、食器、衣類、雑貨……、ステキなカフェタイムを演出してくれるモノだったら、何でも商品になるわけです。

その後のカフェブームはご存じのとおりです。
シアトル系カフェをはじめ、個人経営のカフェが生活の中に定着しました。

「スターバックス」は「エクスマ」だったんですね。

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北海道釧路生まれ。明治大学卒。著書「モノを売るな!体験を売れ!」で提唱したエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者。経営者、ビジネスリーダー向けに「エクスマ塾」を実施、塾生はすでに1000名を超えている。著書は、海外にも翻訳され30冊以上出版。座右の銘「遊ばざるもの、働くべからず」
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