コンテクストを共有したコミュニティ ジャズ喫茶「ジスイズ」
塾生さんの乗山さん(シーサー君)のFacebookの投稿で、釧路のジャズ喫茶『ジスイズ』が閉店することを知りました。
とっても残念だけど、マスターが病気になってしまったので、しょうがないっていばしょうがないことです。
ボクのマーケティング『エクスマ』の原点になっている、ジャズ喫茶でした。
コミュニティやエネルギーのある情報発信、場の概念、個の力、文化の重要性。
などなど、若いころから、たくさん影響を受けました。
たくさんの素敵な時間と多くの気づき。
本当にありがとうございます。
『ジスイズ』のコミュニティのことは、書籍にも書いたのですが、それをリライトします。
ボクは高校2年のときに、JAZZに出会います。
街の公園の横にある、ジャズ喫茶「ジスイズ」に通い詰めました。
1975年。
社会がまだまだ不安定で、激変する予感がある、そんな時代でした。
このジャズ喫茶は、ボクの著書「集客術」の舞台になったお店です。
主人公の風間浩二が、この店で謎の老人「トミーさん」に出会って、アドバイスを受け、成功していくという、小説仕立てのマーケティング本。
おかげさまで、ボクの本の中でもかなり売れている本です。
この喫茶店、1969年に開業して、マスターの小林さんが病気になってお休みする2012年秋まで43年間営業していました。
その後、2015年の5月まで、別の会社がマスターの後をついで営業していましたが、今回の廃業に至ったわけです。
地方経済は東京に比べるとよくありません。
特に北海道の釧路なんていうのは想像以上に厳しいです。
どんどん過疎化している。
そんな地方都市にありながら43年間もの間しっかりと経営していた。
すごいことです。客が減るとリニューアルする店が多い中、43年間、一度もリニューアルしたことありません。内装は昔のまま。はっきり言って、古いです。変わったのは、トイレ(昔は水洗じゃなかった)とCDが出てきたころからCDを使っている。(昔はレコードだけ。あたりまえだけど・・・)スピーカーはそのまま。コーヒーのブレンドも43年間変わらず。コーヒーの淹れ方も43年前と同じネルドリップ。
JAZZ喫茶という業態だけでなく「ジスイズ」のマスター小林さんが、企画・運営するさまざまなコンサートやアートイベントも一度も赤字になったことがない。
JAZZミュージシャンの間で「ジスイズ」が聖地のようになっていました。
あのピアニストの山下洋輔さんや世界的サックスプレイヤー渡部貞夫さん、一流といわれているミュージシャンが、「ジスイズ」でライブをやりたがっていましたし、実際毎年ライブをやっていました。
JAZZのライブだけでなく、日本を代表する舞踏家の大野一雄さんの公演を企画したり、細江英公さんの写真展や劇団「黒テント」などの地方巡業にも協力をしていました。
そういうイベントやライブを毎週のように、頻繁に実施していました。
そして、とっても面白く、刺激的で、クリエイティブ。
釧路に来る音楽・演劇・美術の相当な部分に「ジスイズ」が関わっていたのです。
北海道新聞の記者によると、北海道新聞のデータベースで「ジス・イズ」を検索すると、なんと229本もの記事がヒットするそうです。
それだけで、単なるジャズ喫茶の枠を超えた、まさに釧路の文化の一大拠点ともいうべき存在だったことがわかります。
独自のコミュニティが繁盛の要因
「ジスイズ」という店を中心としたコミュニティができあがって、40年以上もの長きにわったって支持されていたわけです。
このコミュニティを創り出した力はマスターの発信力でした。
「ジスイズ」のマスター、小林東さんがいつも発信しつづけているということ。
発信といってもソーシャルメディアを駆使していたわけでもなく、ニュースレターを発行していたわけでもありません。
たくさんの、一貫性のある「ライブの発信」をすることで「ジスイズ」がパワーのある「場」になっていったのです。
決してお客に媚びることはしません。
卑屈になることもなく、傲慢になることもなく自分のコンテクストに合ったものを、発信しつづけている。
自分の好きなこと
いいと思ったこと
素晴らしいと感じたこと
刺激的なこと
知的興奮が喚起されたこと
そこには現代人の多くが忘れてしまっているエレガントな「文化」の香りや、たまらなくスリリングな「知性」が漂っていた。
そして、その発信に共感した人たちが、ファンになっていった。
ファンたちが増えていくと、次第に「ジスイズ」の「コミュニティ」が形成されていくわけです。
あるコンテクスト(文脈や価値観)に共感したコミュニティというのは、とっても関係性が濃くなります。
そうなると、価格やスペックなどとは無縁の世界になります。
ジスイズのコンテクストに共感したお客さまは、常連客になりました。
そういうお客は、自分の好きな友人や知人を、ジスイズに連れていったり、マスターに紹介したりして、コミュニティが少しずつ広がっていった。
常連客はライブの時なんかは、ライブ料金を支払いながらも自らスタッフをしたり、販促のお手伝いをしたり、お友達を積極的に誘ったりしました。
もちろんマスターが依頼したわけではなく、自らの意思でそういう活動をしていたわけです。
ソーシャルメディアなんてない時代から、シェアされていたということ。
体調を崩されて、お店を休業しましたが、マスターの小林さんが、詩人である奥様の藤田民子さんと創り出した北の文化発信基地「ジスイズ」は、間違いなく大成功した事業です。
それも、大衆をコントロールするとか、心理的に操作するという次元ではなく、面白がって楽しんで、自分の好きなことを発信することでエネルギーが生まれ、そのエネルギーが人々に伝わっていくというものでした。
それはある意味、現代のマーケティングの理想とも言うべき形です。
コミュニティを作るには、エネルギーのある発信が必要です。
そして計算されたシナリオではなく、こんなことをしたら面白いだろうなとか、お客さんはきっと楽しいだろうな、というというようなコトに巻き込まれていくような、自然発生的なマーケティング。
まさにそれは、ジャズの本質でもある即興演奏。
ファンとジスイズのジャム・セッション(即興演奏)だったわけです。
藤村 正宏
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